I was stage gazer

星を追う

クレシダ

とりあえず、見に行こうと思ったのは役者さん目当てで、平幹二朗さんを拝見してみたかったのと、碓井将大さんが出演されると聞いて。

あとベテランの役者さんと若い役者さんたちの作り上げる作品は相互に作用するものがあってきっと面白いだろうなぁという気持ちで、ほんの軽い気持ちで言ったらこれは演劇に対する愛のお話だなぁと思ったし、このお芝居を演じる役者さんたち、劇中の少年俳優たち、またはシャンク、ディッキー、ジョンの演劇に対する愛のお話だった事がとても素晴らしくていい作品に出会えてとても幸せだと思った。

少年俳優という17世紀初めの頃の英国の演劇のシステムの面白さ、みたいな事をまず思ったんだけど、劇団は株主からの出資で成り立っている、とか養成所があって少年俳優を育てているとか歴史的な背景がちらりと知れて面白かったんだけどそこらへんもうちょっと詳しく知るとさらに面白いのかなあと。
シャンクの語る自身の人生の話は辛かったけれど(誘拐されて親が迎えに来なかった)演劇によってシャンク自身が、シャンクの人生は救われたんだと思った。

そしてシャンクが少年たちに愛情を持って接しているのもまた少年たちを救ってあげたいのだと思った。

シャンクやスティーヴンの例もあるように少年俳優達は孤児だったり、家族に売られたりして演劇に関わる事でしか生きていけない、それ以外の選択肢を与えられていないのではと思っていてあの劇団は少年俳優たちと、元少年俳優達は孤独な人間の寄せ集め、というか孤独が人間たちが演劇を通して繋がって家族になり、演劇を通してないとうまく関われない様な(何を言うにも台詞の引用が入るとか)そんな歪な関係なのかと思って。

でも衣装係のジョンのお芝居をキラキラとした目で見つめるトリッジとグーフィーの姿にやっぱりお芝居が好きな子たちで、お芝居の事となるとこんなに目の色が変わるんだなというのがとても愛おしかった。

老いた者たちは少年たちに在りしの自分を見るし少年たちはこれからの自分が進む道を老いた者たちには見ていないすごく少年らしい能天気さみたいな対比が良かった

(ハニーは老い、年を取ることに対して恐怖や危機感をすでに感じているけれど)

ハニーの老いへの恐怖はシャンクの死への恐怖に重なる部分があるなぁと思うんだけど。そんな二人がそれぞれの形で新しい時代の訪れを、自身の死(シャンクは自分の時代が死ぬ事、ハニーは女役としての自分の死)をその間にいるディッキー、

ディッキーがハニーにもう女役としては年を取りすぎていると引導を渡すんだけどそれを今言うの?とかハニーの表情とか声とか本当に堪らないものがあるんだけどハニーは女役でないといけない、いつでも愛されてなければいけないと思っていて、女役が出来なくなった、ヒロインではない自分に価値はないと思い込んでいるような気がして。

その気持ちを痛いほど分かる(はず)のディッキーがハニーに言うのが…あとそのあとメインから外れたハニーの階段脇での演技がとても好きだった。

シャンクはすごく打算的だし、ずるいし、以前ほど演劇に対して情熱は持てなくなっているけどそれでも演劇を愛しているというのが演技掛かった立ち居振る舞い、台詞に感じる。演劇と共に生きている、生きてきた人生だったんだなという事も。

ハニーに演技指導を任せてのは己の限界をそろそろ感じているのはもちろん、ハニーに演劇に関わりつづけて欲しいという道を示しているのかなと思う。たくさんの少年俳優たちを見送ってきてそれぞれ芝居を辞めてしまった方が多いだろうし、シャンクがこれまでどれくらいの少年俳優を育ててまたどれくらいその終わりを見送って来たのかなと想像させられる。それは多分とても寂しくて虚しいものだったんじゃないかと。

懸命に芝居を教えても少年俳優たちが輝ける時間は短い。だからこそ自身も引退を考えていたんじゃないかと演劇はシャンクの人生を救ってくれたと思うしシャンクは演劇と共に生きてきた人生だったと思うんだけど、演劇に対する情熱を失ってしまうくらい自分の無力さも感じてきたのかなと。それでも生への執着は物凄いけど。死ぬのが怖い。老後の為にって溜め込んだお金はすでに老後に差し掛かっているのではって言いたくなるし、スティーヴンを売り払ってでも生きる道を選ぶ。舌を焼かれるなんて嫌だ!こんなに長く付き合ってきた舌を!(うろ覚え)図らずも売り飛ばす為に演技を仕込んだスティーヴンに新しい時代の幕開けを見て自身の本当の引き際を知るんだけど…

引導を渡された、というのが近いのか。スティーヴンに出会って打算のためとはいえまた演劇に対して真剣に向き合えて、真剣に向き合ったからこそ新しい時代が来る事を感じて喜べてシャンクは本当に良かったなぁと思う。幸せな物語である事もこのお話がとても好きな理由の一つだと思う。

シャンクはディッキーが劇団の経理として関わっていて仕事ばっかり数字ばっかりって少し悲しげにシャンクは言うけれどディッキーは演劇に対する愛情を少しも失ってないなってだからこそ得意な事で劇団に演劇で関わっているのだなと思う。

シャンクの傷口が開いてしまってディッキーに手を握ってくれ…何か楽しい話をしてくれ…ってせがむシーンまるで父と子のようで、シャンクは少年俳優達と家族を作っていたんだなとこの時にディッキーがする話がまずいシチューを食べながら、あんたは暖炉の前に居た、と話し始めて舞台の上で喝采を浴びるシーンでなくて何気ない日常の中の幸せ、あれはシャンクに褒めてもらえた事がとても誇らしかった事が嬉しかったのかなと思ってまるで本当の親子の様だし、シャンクとディッキーのこれまで過ごしてきた時間、があのシーンで色々想像を掻き立てるのがとても良かった。

とても良い作品に出会えて本当に幸せだった、演じている役者の皆さんもキャラクターたちも、見ている観客側ももちろん演劇を愛している人たちがあの空間を作り上げているんだなと思うと本当に楽しくて愛おしい時間でした。また見たい。


ーーーーハニーの話ーーーーー
なんだかとってもハニーにやられてしまった。なんだろうあの魅力的な子は…皆大好きハニーさん。なんだかとっても仔猫ちゃんだなぁとやられた頭で思った。

いつまでも女役でいなければいけないいう呪いに掛けられている様な子の様な気がして、女役を辞めても演劇を続けてくれた事が本当に救いでとても嬉しかったし、演じるのがロミオじゃなくてもいい役だ、と言えるのはクレシダの役についてセリフが17行しかない役をどう演じればいいのかわからないと言ってた子と同一人物とは思えず、穏やかないい顔になったなと思った。

男役になっても何だかとってもそこはかとなくヅカの男役みたいな元々女性だったのね、という感じが抜けていないハニーは一粒で2度美味しい。

何だかちょっと誇らしげに似合わないヒゲを触るのもやっぱり可愛らしく見えてしまってどこかにまだ女役の時の匂いがチラチラするのとっても好きです。

あとすごくズルい。結婚する相手はドレスを着た君に似ているはズルい。何て事をいうんだ…芝居がかった物言いって事なのかなっても思うんだけどハニーが最後まで”ハニー”というキャラクターを演じているのかなと思った。スティーヴンはハニーの一番のファンなのだし。もうどうしても好きになっちゃうありがとう。

ハニーはとても寂しさを知っている子なのかなぁとあの表情から色々想像してしまったんだけどシャンクにスティーヴンを売るなんてとんでもないという顔をしたり、スティーヴンをちょっと疎ましく思いながらも優しく演技指導してあげたり(自分の脅威になるなんて微塵も思っていないからだと思うけど)演じられた橋本さんは高飛車だとか、演技指導はシャンクに恩を売るためにやっているとおっしゃっていたけど、プライドは高くとも嫌な奴になりきれない本当は優しい子なんだろうなと思った。とっても愛されたい子なのかなとも思った。ハニーの過去に何があったのかは知らないけれど。主役に、女役にこだわり続ける段階から抜け出せてもっともっといい俳優になっていくんだろうなと思ったし、ハニーの演じるベンヴォーリオを見てみたい。


セットの話とかあの冒頭のシーンの話をしたかったけれど入れられなかった残念。

図らずも平さんの遺作になってしまって見に行こうと決めたのが運命のような気がしてならかなかったしもう二度と見られない寂しさと。