I was stage gazer

星を追う

お前は娼婦 / 俺は娼婦

お前は娼婦、俺は娼婦の掛け合いがあまりにも衝撃的でむしろそこしか歌詞をはっきり覚えていない、月組公演『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald's last day~』

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kageki.hankyu.co.jp

ちょっと古めかしいとっつきにくい作品なのかなというイメージを持っていたら全くそんな事はなく、むしろ好きなタイプの作品で思わずチケットを増やしてしまった。

演出にやや思うところはあれど(そのセンスどうしたの??ってすこし気になるところ)ある役者がスコット・フィッツジェラルドの人生を演じる舞台での役作りの過程を見る、フィッツジェラルドどう演じようかと考える役者と演じられた作られたフィッツジェラルドがそこに存在する、というような舞台の上の真実と虚構が混じり合うような作品だった。主演のフィッツジェラルド/TUKISHIROは主役であり、ストーリーテラー的な役割で本当にセリフが多くて大変だろうなと思った。

フィッツジェラルドとスコットフィッツジェラルドを演じる役者(TUKISHIRO)がはじめはいったりきたりしているけれどそのうちにだんだんとどっちなのか分からなくなってしまうようなもちろんその2役をはっきり切り替えて演じる場面も素晴らしくてすごくお芝居らしいお芝居を見た、と思った。ちゃんとミュージカルらしいナンバーもあるしちゃんとミュージカルでもあるけれどすごくお芝居らしい、お芝居。

 フィッツジェラルドの作品についてもその人生についてもほとんど何も知らなかったけれどあまりに優しくて弱くてとても美しかった。すぐ感覚の話をしてしまうけれどすごく美しい話だなと思ってしまった。何より舞台の上に綺麗な人間しかしない宝塚だけれどそういう事じゃなくてこの人の人生がすごく愛おしくて美しかった。多分愛情を持ってフィッツジェラルドが描かれているせいただとおもうけれど。

わたしはこの作品について随分とフィッツジェラルド贔屓で見てしまっているけれど出てくる人物が全員人間らしくてとても好き。

創作者の苦しみ、はよくわからないけれど身を削って自らを晒しつづけながら生きるフィッツジェラルドが愛おしくて美しくてしょうがなかった。

あと本当にフィッツジェラルドが出ずっぱりなので演じる側は大変だろうなと心配したりしたけれどそうやってずっとフィッツジェラルドの姿を見ているから余計に感情移入しながら見てしまうという構造なのかもしれない。

お前は娼婦〜 / 俺は娼婦 はヘミングウェイフィッツジェラルドを批判するときに身体を売る代わりに才能を売っている、と芸術家として創作するべきだ、という批判の言葉だけれどあまりにもヘミングウェイフィッツジェラルドの才能を愛して、失望している事が分かるけれどもパワーワード過ぎてどうにもこうにも…フィッツジェラルドヘミングウェイの最初の仲が良さそうなシーンからあまりに冷たい視線でフィッツジェラルドを見るヘミングウェイという移り変わりも大変に楽しい。

(中の人、という視点でどうしても見てしまう部分もあって余計にううとなってしまう)

フィッツジェラルドを取り巻く3人の女とかマックスウェルとか人としても芸術家としても褒められる様な事が少ない人なのかもしれないけれどどうにも破滅的で美しく思えてしまって、とても美しい作品だなと思った。

あまりに美しい、以外の言葉が出てこないけれど表面的な美しさももちろん、その精神性が美しいみたいなあまりにも脆くて弱くて優しい人間らしい美しさのある作品だなと思った。

出演者の話をすると、主演で真ん中にいる月城さんを見て改めてこういうお芝居をする人なのか、と気づいた部分もあるしやっぱり単純に上手い人だなと思った。出ずっぱりでもぶれる事なくしっかりと真ん中にいて素晴らしい主演だった。

ゼルダ役の海乃さんは美しさ、とその激しさもさる事ながら月城さんとの相性が最高で2人の歌声とか演技が合わさる幸せをとても感じてしまった。本当に素晴らしい相手役だった。ゼルダが壊れていくときの演技を見ながら次のエリザでのヴィンディッシュ嬢もすごく楽しみになった。すごく大人っぽくて綺麗な方だなぁと思うけれどゼルダのゴージャスさもすごく似合っていてとてもよかった。

出番的には少ないんだけど強烈な印象を残していくヘミングウェイの暁さんにはどうにもひえぇってなってしまうんだけどヘミングウェイのラストにも泣いてしまった。誰よりもフィッツジェラルドの才能を信じて愛して同じ作家であるゆえのもどかしさとか苛立ちとか彼にしか持ち得ない感情なんだなと思うしその執着もまた作家であるがゆえなのかなと思ったりご本人のイメージがとても強いからか、こんな表情をするのだなぁとかこんな目をするのだなとかいちいち新鮮だったりもして、これからが楽しみだなという気もした。

組長さんが上級生娘役の立ち位置にいるのも月組ならではだなー!と思って楽しかったし、やっぱりフィッツジェラルドを取り巻く3人の女、をきっちり固めてきていたのが良かった…!!

全体的に若いと思うんだけどしっかりしたお芝居をするカンパニーだ、と思ったしわたしがとても月組らしいなと思うお芝居だったのでそこも多分とっても面白いと感じる理由のひとつ、なのでチケットも増やした事だし、またこのお芝居をじっくりと見られる事を楽しみにしている。